台本倉庫

「ゴミオ君のおはなし」フレネミー。または精神と肉体をめぐる共依存。

ゴミオ君が最初に分かったのは、「じぶんがいる」という事でした。

ゴミオ君は、かじりかけのゆで卵の頭。

ゴミオ君は、チキンカツの体。

ゴミオ君は、ウインナーの両手。

ゴミオ君は、スティックサラダのにんじんの足。

ゴミオ君は、生ゴミで出来ていました。

ゆっくりと見回すと、周りはとても薄暗くて、湿った空気が分厚く重なり合い、

死んだように音を無くしていました。

パンの耳。きゅうりの切れ端。魚の皮。ゴミオ君は自分と同じような物の上に座っていました。

ゴミオ君は、もう一度、思いました。「僕が、いる」

「やあ。」

ふいに、声がしました。

「やあ、ゆで卵頭の君だよ。」

見回しましたが、誰もいません。

「どこにいるんだい。」

「ここさ、ここ。下を見なよ。」

ゴミオ君は座っている地面をよく見ました。

すると、ゴミの間から白い光がちかりとしました。

白くて平らな丸いものがこっちを見ています。

「君は誰だい。」

ゴミオ君は近づいて座り直しました。

「僕かい?僕は、ウージーさ。」

白い先端が動いてしゃべりました。

「僕は、ゴミオ。」

ゴミオ君は、ウージーのどこに目があるのか分からずに、ただ先端を見て名乗りました。

ウージーは、ゆっくりと体をもたげて下から上までゴミオ君を眺めながら、含みのある声で言いました。

「所で君は、こんなところで何をしているのさ、ゴミオ君?」

「わからない。」

ゴミオ君はうなだれました。

「わからない?」

「うん。どうして僕は、ここにいるんだろう。」

ウージーは、きゅきゅきゅと笑い声を立てました。

「簡単じゃないか、ここはゴミを捨てる場所なんだよ。だから君がいる。ゴミはみんなここに集められるんだ。」

ゴミオ君は、自分がゴミであることを初めて知りました。

「そうだったのか、じゃあ、君もゴミなのかい。」

「冗談じゃない、僕は君とは違うさ。僕は、れっきとした虫だからね。」

「虫?」

「そうさ。虫は神様がお造りになった、れっきとした生き物なんだよ。」

「じゃあ、僕は?ゴミである僕は何?」

ウージーは黙って、それからぷうとため息をつきました。

「神様が僕らを造ったって、あれ、嘘かもしれない。」

「え?」

「もしも神様が本当にいるとしたら、君がこうしているのって、おおかたくしゃみでもしたはずみなんだろうね。」

 

ゴミオ君とウージーは、レストランの外にあるダストボックスの中にいました。

ゴミ収集車が来たので、袋の破れ目から二人は逃げ出し、それからはダストボックスの床で暮らす事にしました。

二人は友達になったのです。

ゴミオ君が新しく分かったのは、ウージーが子供ではないということ。

僕らは生まれてすぐに大人なのだとウージーは教えてくれました。

「僕は年寄りになるために生きるんだよ」

「年寄りって何だい。」

ゴミオ君が不安げに聞きました。大人がその後なるものなんてあるんだろうか。

「大丈夫だよ、君は大人にも年寄りにもならないからね。僕がなる年寄りってのは、体が真っ黒で羽が生えた奴だ。そして空を飛んで最後の大仕事をこなすんだよ。」

「羽って?空って?大仕事って?」

「そう矢継ぎ早に聞くもんじゃない。」

ウージーは少し得意げに言いました。

「羽ってのは飛ぶための道具さ。空ってのは飛んでいる場所で、だだっ広い青さ。大仕事ってのは、メスを探して卵を産ませるんだ。」

「卵?僕の頭みたいな?」

「そりゃあ、大きさが、違うね。」

ゴミオくんの後ろから声がしました。

「それに、産んだ生き物が違うよ。」

と、もうひとつの声。

ゴミオ君が振り向くと、白い光が二つ、ちかりとしました。それは、別のウージーでした。

「やあ。」

「やあ。」

二人のウージーは別々に言いました。

「やあ。」

初めからいたウージーが答えました。

「君たち、三人だったの。」

まったく気付かなかったのでゴミオ君は驚いて三人を見比べました。

二人は、少しだけ小さく見えます。

「さっきまでは一人だったさ、二人は今孵化したんだ。」

「フカって何だい。」

「僕のお尻にまだ引っかかってるだろう。」

見ると、二人のウージーのお尻は、まだ卵の殻に入ったままでした。二人は殻を脱ぎました。

「ここからでてくるのが、孵化なんだ。ここを出てはじめてウージーになるんだ。」

「へえ。」

ゴミオ君は何だか感心して二人を見ると、二人は、目のよく分からない先端で、ニッと笑いました。

「僕らも友達になっていいかな。」

「本当かい?もちろんだよ。」

ゴミオ君は飛び上がらんばかりに喜びました。ゴミオ君の友達が三人になったからです。

「ちょっと待っててくれる。」

ウージー達は、ゴミオくんのそばを離れると、三人でひそひそ話しを始めました。

「どう思う。」

「これで三人だろう。」

「ここまでにしないか。」

「そうだね、これ以上増やしてもろくな事にならない。」

ゴミオ君には、三人が何の話をしているのか見当も付きませんでした。

ウージー達は話が終わると、おもむろに床に落ちているゴミをひっくり返し始めました。

最後のレタスをはがすと、下から、びっしりとウージーの卵が出てきました。

「これは?」

ゴミオ君がそのつやつやした丸いものを覗き込みました。

「これは、僕さ」

ウージー達は、声を揃えました。そして、それぞれが卵を持つと、思い切りダストボックスの

壁に叩き付けました。

すると卵はつぶれて中身が花火のように飛び散りました。

ウージー達は、わっと歓声を上げました。

「どうして!」

ゴミオ君は驚いて叫びました。

「それは君達自身なんだろう、なのにどうしてこんな事するんだい。」

ウージー達は卵を投げ付ける手を休めずに答えました。

「僕が増えすぎると後で困るんだ。」

「僕は、これら卵達であると同時に僕は僕自身ひとりきりだ。メスに卵を産ませるのは僕らだけで十分なんだ。」

「え……。」

ウージーは、ゴミオ君を伏目がちで見つめました。

「…多すぎる僕なんて、多すぎる敵でしかないんだ。だから今のうちにやっつけておくのさ。君は僕らが卵達にやっつけられていなくなってしまったら寂しいだろう。」

「うん、君達がいなくなったら、寂しい。」

ゴミオ君も静かに言いました。

ウージーは、卵を一つ拾うと、ゴミオ君に手渡しました。

「この卵の数見てごらんよ、キリが無いから手伝ってくれないか。…そいつを壁に放るだけでいいんだ。」

ゴミオ君は言われるまま卵を思いきり強く壁に投げ付けました。

卵は花火のように壁に飛び散りました。

ウージー達はとても優しくゴミオ君に笑いかけました。

ゴミオ君は、嬉しい気持ちになりました。

 

ある朝、ゴミオ君が目を覚ますと、左腕が無くなっていました。

「ああ、それなら僕らが食べたんだよ。」

ウージー達は事も無げに言いました。

「どうして友達なのに僕を食べたの。」

ゴミオ君は泣きそうになって叫びました。

ウージーたちは冷ややかにこっちを見ました。

「いいかい、このダストボックスには食べ物が無いんだ。見なよ。最近ゴミ袋がきっちりと縛ってあるだろう。これでは食べ物にありつけない。僕らが飢え死にしない為には君の左手をもらうしかなかったんだ。君と違って、僕らは食べなきゃいけないからね。」

「だけど、だけど、」

ゴミオ君は、すっかりべそをかいていたので、ウージーはきっぱりと言いました。

「なら、僕らが飢え死んだ後、君は一体どうするんだい。僕らが君を必要として、認めているから君は存在しているんじゃないか。君ひとりきりになった時の、君という存在は一体何だい?誰にも認められなければ、君はただの歩き回る生ゴミでしかないじゃないか。」

ゴミオ君は黙るしかありませんでした。

「ゴミオ君、僕らは君が何の意味も無く命を持ってしまった事が悲しいんだ。君がただの生ゴミであってなんか欲しくない。僕らがしてあげられる事といえば、友達として一日でも長く一緒にいてあげる事だけなんだ。君と僕らが長く共にいられるためにはどうすればいいか、分かるだろう、君、答えてくれないか。」

「僕を……食べる?」

「そんな言い方しないでくれよ。食べるなんて言わないんだ、ほんの少し、時間を分けてもらうんだよ。」

ウージー達は、まだ手付かずの右手をいとおしそうに頬擦りしました。

「時間……。」

ゴミオ君は、右手に群がるウージー達を見つめました。

「…僕は、何故生きているんだろう。」

きゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅきゅ。ウージーたちは軽やかに笑い出しました。

「そんな事、人間が考えてることじゃないか。」

「そうさ、人間は、そういう意味の無い問いをこねて暇つぶしをするんだ。」

ゴミオ君は恐ろしい気持ちになりました。

「じゃあ、じゃあ、生きる理由って、探しても答えはないのかい?」

ウージー達は、笑うのをやめて、またゴミオ君の右手を撫で始めました。

「まあ、あったとしても、とても食べられたものじゃないね。」

 

 

最初に出会ったウージーがどこかに行ってしまいました。

残されたウージー達が、じゃあサナギだと言いました。

ゴミオ君には、さっぱり意味が分かりませんでした。

少し湿った空気が、いつもより澄んでいたその朝、ゴミオ君は半透明のゴミ袋に短くなった右手を引っ掛けて、ゴミ収集車に乗り込みました。

その時、左と右の足をそれぞれかじっていたウージー二人も、ぶら下がったまま一緒に連れられてしまいました。

右足にいた一人は、袋が収集車の中で練り込められる時に花火のようにはじけました。

ゴミオ君は体を引きずって、潰される心配の無いふちの方に座る事にしました。

ウージーはひとりになりましたが、まだ左足をかじっています。

「ねえ君。」

ウージーが口をもぐもぐさせながら言いました。

「どうしてこれに乗ったんだい。」

ゴミオ君は静かに答えました。

「わかったんだ。」

「え?」

「僕は、生ゴミで、この車は生ゴミを運ぶ車なんだ。」

「だから乗ったって言うのかい。」

「うん。」

「賢明だね。」

ウージーは、案外あっさりと言いました。

「で、この車がどこへ向かうのか君、知っているのかい。」

「知ってる。僕は真っ黒な煙になるんだ。…ねえ、君は逃げなよ。このままここにいたら、君も煙になってしまうよ。」

「僕は最後まで食べるだけさ。サナギになり、羽の生えた年寄りになり、メスに卵を産ませるためにね。
間に合わずに僕は煙になるだろうけど、そんな事は関係ないんだ。」

ウージーはゴミオ君の足をかじるのをやめ、車の隙間を指しました。

「見てごらん。これが空だよ。」

ゴミオ君が隙間をのぞくと、目まいのしそうな強い光と、ただただ一色の青が見えました。

「青いね。」

「青いさ。…天国は見えるかい。」

「天国って何だい。」

「君が言ってた生きる意味ってのより、もっと食べられないものさ。」

車が急に止まりました。信号が赤になったようです。

止まった勢いで、積み重なった生ゴミがすこし崩れ、よろけたゴミオ君は尻餅をつきました。

「やあ。」

転んだ頭の上、その外から声がしました。

「やあ君、ゴミ収集車に乗っている君。」

それは、サナギになっていたウージーでした。

「僕がサナギを出た時、君が運ばれるのが見えたから車にくっ付いて来たんだ。風のおかげですっかり羽が乾いたよ。」

「君が……?」

ゴミオ君は驚きました。

「ああそうか、前と姿が違うから驚いているんだね。どうだい、僕は真っ黒になって飛べるんだ。今は名前も変わった。僕の新しい名前は、『映え』さ。」

「そうかい、映え君って言うんだ。でも、せっかくまた会えたけどもうすぐお別れなんだ。」

「そうみたいだね。僕ももう行かなきゃ。メスを探さないといけないんだ。僕はもう年寄りで、あと少ししか生きられない。もしメスを見つけられずに死んだなら、僕だって、君達のようになってしまう。」

「……僕達?」

映えは、カギのついた足を伸ばしてゴミオ君の後ろを指しました。

ゴミオ君が振り向くと、さっきまでしゃべっていたウージーが、崩れたゴミの下で花火のように飛び散っていました。

「…こうなってしまえば、みんなゴミさ。」

ゴミオ君の背中で映えが呟きました。

信号が青になり、車が再び走り始めました。生ゴミの山はさらに崩れて、飛び散ったウージーの姿を隠しました。

ゴミオ君が振り向き外の光に顔を戻すと、映えはもう、そこを離れていなくなっていました。

車は、ゴミを運んで焼却場を目指します。

ゴミオ君は、長い間ひとりで車の隙間から、ただの青色を見ました。

やがて現れ始めた煙突から吐き出される黒い煙、それこそが僕なのだと思いました。

ゴミオ君は、空へ伸びる真っ黒な煙が、どんどんきれいな青色に散って行くので、

「僕が黒い煙になったらうんと高く飛ぼう。そして少しだけ青を汚せないだろうか。」

などど、ぼんやりと考えていたのです。

-おわり-

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